プロジェクト概要– PROJECT OUTLINE –

1970年、大阪万博。閉会後の会場活用整備において、淺川組はプールの施工に携わりました。

それから55年。再び関西で世界的な一大イベントが開催されると決まったとき、淺川組の社内で共有されたのは「なんとしても参画し、万博の成功に貢献したい」という思いでした。

そして2025年、大阪湾の埋立地・夢洲に、淺川組は、世界が集まる舞台「フィリピンパビリオン」の建設プロジェクトを発足します。

敷地は936.04㎡。約283坪。決して広くはないこの土地に、前例のない構造の建築物を、絶対に動かせない開幕日までに完成させる。
それが、このプロジェクトに与えられた条件でした。

このページでは、淺川組が何を建て、誰と組み、社内の誰がどう動いたのか。プロジェクトの全体像をご紹介します。

フィリピンパビリオン建設プロジェクト概要項目

項目内容
建築物2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)フィリピンパビリオン
所在地大阪市此花区 夢洲(万博会場 北東工区)
敷地面積936.04㎡
建築面積603.95㎡(建ぺい率70%に対し 約65%)
クライアントThe Philippine Organizing Committee-led by the Department of Tourism and the Tourism Promotions Board(TPB) Philippines
建築デザインCarlo Calma Consultancy / CAT
展示デザインTellart
建築工事淺川組・西尾レントオール特定建設工事共同企業体
展示工事BeWunder
主要工程・2024年5月基礎工事開始
・2024年7月木造建方
・2024年8月屋根施工
・2024年9月外装ファサード
会期2025年4月13日〜10月13日(184日間)

※ 建ぺい率とは、敷地面積に対して、建物を建ててもよい面積の割合のこと。建物の用途や地域・場所によって法律で定められています。

※ CLTとは、板を繊維方向が直交するように重ねて接着した木質パネルのこと。強度が高く、大きな空間を木造でつくることができます。

位置とロケーションと限られた敷地

フィリピンパビリオンは、万博会場のシンボルである大屋根リングの内側、北東部に位置していました。

北と東はランドスケープ(舗装・植栽)工事、南はアメリカパビリオン、西はパビリオンタイプB(万博協会が建物を用意し、各国が内部を装飾する方式)の建設工事。つまり、四方すべてで別の工事が同時進行しているという環境です。

自社の敷地内で工事を完結させることが原則であり、資材の置き場も、事務所を建てるスペースも、通常の現場のように確保することが難しい状況でした。

前例のない、建設用足場を建築物の構造体に

このパビリオン最大の特徴は、外観にあります。

通常であれば工事が終われば解体される「仮設の外部足場」を、そのまま建物のファサード(正面外装)の構造体として外観に使う前例のない設計です。外部足場は木造の本体建物と、外を覆うスチールフレームに連結され、一体の構造物となっています。

これは意匠として面白いだけではありません。無駄な建材を使い、会期終了後に破棄することを最大限避けるため、また建設時に足場を一度解体し、会期終了後の建物解体時に再び組み立てるという工程を省略できるため、スケジュールにもコストにも合理性がある構造でした。

1,000枚を超える手編みのラタン(籐)の様子
手織物パネルの様子

会期中、スチールフレームには1,000枚を超える手編みのラタン(籐)パネルと、フィリピン18地域から集められた212点の手織物パネルが取り付けられ、「WOVEN(織りなす)」というテーマを体現する表情をつくり出しました。

プロジェクトを成功に導いたJV(共同企業体)

※ JV(ジョイントベンチャー/共同企業体)とは、ひとつの工事を複数の企業が共同で請け負う体制のこと。それぞれの得意分野を持ち寄り、大規模な工事を実現します。

このプロジェクトで淺川組がタッグを組んだのは、西尾レントオール様です。

フィリピン政府より委託を受けた設計事務所・CAT社を通じて共同企業体を組成し、西尾レントオール様が設計サポートと木材を中心とした資材調達を、淺川組が施工を担うという体制で、2023年12月にJVチームが発足しました。

西尾レントオール様は、仮設技術とノウハウを活かしたイベント施工事業を手がけ、大阪・関西万博では当時の首相をはじめVIPが多数参加した起工式を取り仕切るなど、開催当初から万博の中心にいた企業です。複数のパビリオン建設を担当されるなかで、淺川組に声をかけていただいたことが、このプロジェクトの出発点でした。

JVのご縁は、一棟の建物から始まった

この縁は、突然生まれたものではありません。

西尾レントオール様は和歌山市内にも拠点を持ち、淺川組は日頃から建設機材のレンタルでお世話になっております。そしてその和歌山営業所は、淺川組が設計施工で建てさせていただいた建物です。

日々の取引と、一棟の建物を通じて積み重ねてきた信頼が、世界的プロジェクトの声がかりへとつながりました。

世界の設計チームと、100社以上の施工者と

建築設計を担ったのは、

  • フィリピンの建築家カルロ・カルマ氏率いるCarlo Calma Consultancy, Inc様
  • 意匠設計はcat様、Somato一級建築士事務所様
  • 構造設計(外装)はyasuhiro kaneda STRUCTURE様、OKStructure様
  • 構造設計(木造)はATA一級建築士事務所様
  • 設備設計は祥設計様

淺川組は、国境を越えた多種多様な設計者の構想を、形にする役割を担わせていただきました。

現場もまた、単独では成立しません。万博会場は4つの工区に分かれ、会場内では100社以上の施工者と同時進行で進みます。

工区では毎週1回、工事調整会議が開かれます。工区統括の大林組JV様を筆頭に、30社以上の施工者が一堂に会して、工事のタイミングを調整していきます。自社の都合だけでは1日も進められない現場でした。

関係者が多ければ、それぞれの思いも強くなります。意匠性・コスト・安全性のあいだで折り合いをつけるのは容易ではありませんでした。淺川組は打合せを重ねながら、妥協せずに全員が納得できる最良の方向を探り続けました。

淺川組プロジェクトチームのご紹介。各記事をご覧ください。

淺川組には、和歌山県の紀州材を使った施工で培ってきた木造の技術があります。木造のパビリオンを建てるという今回の依頼は、その技術の延長線上にありました。

実際にプロジェクトを動かしたメインメンバー、部門を越えた社員たちを紹介します。

【営業】玉井勇作

淺川組にとって、フィリピンパビリオンは初めての海外案件でした。契約交渉から関係各所との調整まで、その窓口を担ったのが営業の玉井です。

届いた書類は、契約書も資料も図面も、すべて英語。
国内の案件とは前提の異なる契約に、社内に前例のないまま向き合うことになりました。

このプロジェクトへの声がかりは、かつて玉井自身が担当させていただいた一棟の建物から始まっています。そして契約を交わしたその瞬間、口をついて出たのは「よっしゃ」ではありませんでした。

開幕の日、東ゲートから歩いた先に現れた景色を、玉井は「鳥肌が立った」と振り返ります。
「初めての海外契約に、営業はいかに向き合ったのか。」営業のストーリーをぜひご覧ください。

▶ 「初めての海外契約と『万博プロジェクト』」を読む

【積算】 稲田淳樹

このプロジェクトで最初に動いたのは、積算でした。2023年10月、一枚のパースが届きます。

描かれていたのは、何でできているのか見当もつかない外観。足場に建物の荷重を預けるという計画も、それまでの経験にはないものでした。

着工後、設計変更は幾度となく重なります。夕方に会議が終わり、翌日の昼までに数字を出す。普段では考えられないスピードで、現場の判断を前に進めました。

そのなかで稲田が「ファインプレー」と呼んだ、ある判断があります。

「一枚のパースは、いかにして建物になったのか。」積算のストーリーをぜひご覧ください。

▶ 「積算から始まった『万博プロジェクト』」を読む

【現場所長】泉雄輔・【構造設計】吉田敏基

2024年2月末、現場所長の泉に声がかかります。「ある日突然」の指名でした。詳細な設計図もなく、完成の姿が描けないままのスタートです。

足場をそのまま外観の構造体として使う、前例のない設計。構造設計の吉田が施工側としての安全性を検討確認を行い、現場をサポートしました。

着工後も仕様は動き続け、工程表は毎週のように書き直されます。「間に合わないのではないか」という報道が流れるなか、泉が守り抜いたのは、関係者のプライドと信頼。

ついに、開幕の日。
その場に立ち会った泉の口から出たのは、「間に合った」という言葉ではありませんでした。

「動き続ける現場で、いかにして開幕の日を迎えたのか。」施工管理・構造設計のストーリーをぜひご覧ください。

▶ 「突然の指名からの『万博プロジェクト』」を読む

淺川組の未来へ

184日間の会期を終え、フィリピンパビリオンは役目を終えました。
建物としては、もう夢洲にありません。しかし、そこに世界が集まっていたことは、確かな事実です。淺川組の技術と情熱が、未来をつくります。

▶ 「淺川組の未来へ」を読む

PROJECT CREDIT

  • クライアント:The Philippine Organizing Committee-led by the Department of Tourism and the Tourism Promotions Board(TPB) Philippines
  • 建築デザイン:Carlo Calma Consultancy/CAT
  • 展示デザイン:Tellart
  • 建築工事:淺川組・西尾レントオール特定建設工事共同企業体
  • 展示工事:BeWunder
  • 写真撮影:小松正樹